1. はじめに
1.1 背景
スマートファクトリー化が進む中、IT側のシステムとOT(Operational Technology:生産設備や制御システムを扱う技術)側のネットワークがつながることで生産効率向上やデータ活用が可能になりました。しかし、その一方でランサムウェアなどサイバー攻撃がOT領域にまで及ぶ危険性が高まっています。
1.2 記事の目的
本記事では、OTセキュリティ対策の基本としてITとOTのネットワーク分離をわかりやすく解説します。さらに、ネットワーク分離の代表的な方式(物理分離、VLAN、IPグルーピング、Firewall活用)を比較表で示し、導入・運用しやすさやセキュリティ効果を解説します。また、NIC(ネットワークインターフェースカード)を複数挿してデータを中継する運用の危険性や、国際規格IEC62443の観点にも触れ、基礎から理解できるようにします。
2. OTとITネットワークの違いとリスク
OTネットワークは生産設備を安定稼働させるための制御領域で、止められない・変えづらい環境が特徴です。一方、ITネットワークは情報処理を中心とし、定期的なパッチ適用や柔軟な変更が可能な環境です。
両者を一体化すると、IT側から侵入したサイバー攻撃がOT領域まで波及するリスクが高まります。IEC62443(制御システム向けセキュリティの国際規格)でも、ゾーニングや分離が重視されています。
3. ネットワーク分離がもたらすメリット
- セキュリティ強化:IT領域からの攻撃がOT側へ簡単に到達しなくなる。
- リスク最小化:一部の障害や攻撃が全体へ拡大する可能性を低減。
- 標準準拠:IEC62443などの国際規格に適合し、グローバルなセキュリティ水準を確保。
4. ネットワーク分離方式の種類
ネットワーク分離には様々な手段があります。以下では、工場への導入しやすさ、運用のしやすさ、セキュリティ効果の3観点から代表的な方式を比較します。
主な分離方式と用語説明:
- 物理分離:ITとOTを物理的に完全に別のネットワーク機器で分離する方法。
- VLAN(Virtual LAN)による論理分離:同一物理ネットワーク上で論理的にネットワークを分割する技術。L2スイッチの設定で特定ポート同士だけ通信させる。※工場の現場で使用されているHUBはvlan設定ができないものも多いので要チェック。
- IPグルーピング(TXONE社EdgeIPS例):特定のIPアドレス群ごとに通信制御を行い、ITとOTを論理的に隔離する手法。TXONE EdgeIPS:https://www.txone.com/ja/products/network-defense/edgeips/
- Firewall活用(FortigateやPalo Alto等):ファイアウォール機器を境界に設置し、通信をフィルタリング・制御する。
各方式の比較表
| 分離方式 | 導入しやすさ | 運用のしやすさ | セキュリティ効果 |
|---|---|---|---|
| 物理分離 | 中程度(新たな配線・機器が必要) | 比較的簡単(独立運用しやすい) | 高(物理的に独立で攻撃経路が限定) |
| VLANによる論理分離 | 高(既存設備を流用しやすい) | やや難(VLAN設定・管理が必要) | 中程度(同一物理ネットワーク上の論理分割) |
| IPグルーピング (TXONE EdgeIPS例) | 中程度(専用機器導入必要) | 中程度(IP管理・ルール設定が必要) | 中~高(柔軟な通信制御が可能) |
| Firewall活用(Fortigate、Palo Alto等) | 中~高(製品選定と導入が必要) | 中程度(ポリシー管理がやや複雑) | 高(高度なフィルタリングで強固な防御) |
5. NIC(ネットワークインターフェースカード)2枚刺しの運用リスク
NICとは?
NIC(Network Interface Card)は、サーバーやPCに搭載してネットワークに接続するための拡張カードです。複数のNICを挿すことで、一台のサーバーが複数ネットワークに同時接続できます。
5.1 NIC2枚挿しサーバー(ゲートウェイサーバー)の危険性
工場では、産業用デスクトップサーバーに複数のNICを挿して、ITとOTをまたいでデータを中継するケースがあります。しかし、これはセキュリティ上非常に危険です。
- 複数ネットワーク間の橋渡しとなり、攻撃者がITネットワークからOTネットワークへ移動しやすくなる。
- ファイアウォールやアクセス制御を適用しなければ、抜け道として利用されるリスク大。
- 対策:データ中継にはFirewallやOT向けゲートウェイ機器を使用し、ポリシーに沿った通信制御を行う。
6. セキュリティポリシーとの連携
- セキュリティポリシーは組織全体で統一した方針を示します。ネットワーク分離やアクセス制御、教育訓練などをポリシーに沿って実行することで、運用ミスや抜け道を減らします。
IEC62443は制御システムのセキュリティ標準であり、ポリシー策定やゾーニングを推奨。これに準拠すればグローバルレベルの防御態勢が築けます。
7. 今後の展望とさらなる強化策
- AIを用いた異常検知で未知の脅威にも対処
- サプライチェーン全体のセキュリティ強化を検討
- 業界標準ベストプラクティスの共有・活用で防御強化
8. まとめ
ITとOTのネットワーク分離は、OTセキュリティ対策の基本中の基本です。物理分離、VLAN、IPグルーピング、Firewallなど複数の方法があり、それぞれ導入難易度やセキュリティ効果が異なります。
また、NICを2枚挿ししたサーバーなど危険な運用を避け、ファイアウォールや専用ゲートウェイ機器を用いて適切な通信制御を行いましょう。
セキュリティポリシーと連携した計画的な取り組みで、リスクを軽減し、安全かつ効率的なスマートファクトリー運営を実現できます。
9. 参考資料・リンク
- 経済産業省「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」
https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/ - 経済産業省「工場セキュリティガイドライン」
https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/wg1/factorysystems_guideline.html - IPA「産業サイバーセキュリティセンター」
https://www.ipa.go.jp/icscoe/index.html - IPA「IoTのセキュリティ」
https://www.ipa.go.jp/security/iot/about.html - IPA「中小企業向けサイバーセキュリティお助け隊サービス制度」
https://www.ipa.go.jp/security/sme/otasuketai/index.html
ご質問やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。


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